しくまた強く窓ぎわから椅子《いす》の方へ連れもどるときに、身ぶるいしながら言った。「君を迷わせるこの有様は、珍しくもないただの電気の現象なのだ。――それとも沼のひどい毒気が、このもの凄い有様の原因になっているのかもしれない。この窓をしめようじゃないか。空気は冷たくて、君の体には毒だ。ここに君の好きな物語が一冊ある。読んで聞かせてあげよう。――そして一緒にこの恐ろしい夜を明かすことにしよう」
 私の取りあげた古い書物はラーンスロット・キャニング卿《きょう》の『狂える会合』であったが、それをアッシャーの好きな書物と言ったのは、真面目《まじめ》でというよりも悲しい冗談で言ったのだ。なぜかといえば、この書物のまずい、想像力にとぼしい冗漫さのなかには、たしかに、友の高い知的の想像力にとって興味を持つことのできるものはほとんどなかったからである。しかし、それはすぐ手近にある唯一《ゆいいつ》の本であったし、また私は、今この憂鬱《ゆううつ》症患者の心をかき乱している興奮が、これから読もうとする極端にばかげた話のなかにさえ慰安を見出《みいだ》すかもしれない(精神錯乱の記録はこの種の変則に満ちているのだか
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