は弱い光線にさえ痛みを感じた。彼に恐怖の念を起させない音はある特殊な音ばかりで、それは絃楽器《げんがっき》の音であった。
私には彼がある異常な種類の恐怖の虜《とりこ》になっているのがわかった。「僕は死ぬのだ」と彼は言うのだった。「こんな惨《みじ》めなくだらないことで僕は死なねばならん[#「ねばならん」に傍点]のだ。こうして、ほかのことではなくかならずこうして、死ぬことになるだろう。僕は未来に起ることを、それだけとしてはべつに恐れないが、その結果が恐ろしい。この堪えがたい心の動揺に影響するようなことは、どんなに小さなことでも、考えただけでぞっとする。実際、僕は危険が厭《いや》なのではない、ただその絶対的の結果――恐怖、というものが厭なんだ。こんな弱りはてた――こんな哀れな有様で――あのもの凄い『恐怖』という幻影とたたかいながら、生命も理性もともに棄《す》てなければならんときが、遅かれ早かれかならず来るのを感ずるのだ」
なお私はときどき、きれぎれの曖昧《あいまい》な暗示によって、彼の精神状態のもう一つの奇妙な特質を知った。彼は長年のあいだ一歩も出ずに住んでいる自分の住居に関して、――こ
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