けて、三人は起きて見ると、箭は姉のところにあったので、末の妹はひどく泣いたのですが、仕方なしにC山に、中のがB山に別れて行ってしまったのだと言っています。
 それでそのA山は一番高い凄い山ですがね、今でも恐ろしい話がたくさんあるのです。私の国では夏の末ごろにそこに菌《きのこ》を採りに行ます。そしてよく山に小屋掛けをして、そこに寝ると、夜中にきっと、怪しいことがあるのですね。時はきまっていますが、真夜中になると、山の中が、ぽーッと、まるで月でも出たように、どこからか薄明りがさして来て、そこらが青みがかって見える。と思うと、谷を隔てた遠くの方で、澄んだ女の声で、さもねむくなるような調子で、歌を唄い始めるのです。それに聞きとれていると、突然そこらで、ぎゃあーっ[#「ぎゃあーっ」に傍点]と女のけたたましい声がして、その薄明りがばったりと又もとの暗になってしまうのです。……私の村のものなどは、大抵[#「大抵」は底本では「大低」]こんな目に逢っています。」

 荻原の目に、陰鬱な火のような表情があらわれた。心が燃えて、烈しく慄えるようすが見える。その話もごつごつしていながら、そのうちに自ずから抑揚
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