ありがとうとその法衣《ころも》を返したから、尼僧はそれを床《とこ》の間《ま》においた。死去の電報を手にした時に、法衣《ころも》はと見たら、矢張《やはり》返された時のままに床《とこ》に置いてあった。
 女衣服《おんなぎ》を着せたのは、永《なが》の病気に、重きは堪《た》えられまじ、少しでも軽くしてやろうと、偶然にもその日それを着せたのである。この話は死んだ某氏の娘が親《したし》く話したのを聞いた人から自分が聞いたのである。

     ○

 これは学友某の実見《じっけん》である。夜中になると戸棚から、今まで見た事もない素敵な美人が出て来て、辰雄《たつお》さん、此方《こちら》へ光来《いらっしゃ》いなと無理に誘い出す。翌朝になると、屹度《きっと》蚊帳《かや》の外へ半身を出している。しかもその友は辰雄という名ではないのである。



底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
   2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂
   1911(明治44)年12月
初出:「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂
   1911(明治44)年12月
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2008年9月25日作成
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