なら、私はこれらの深淵の一つへ跳びこんで一思いに自分の惨めな運命の結末をつけてしまう勇気があったろう。だがそのとき私はもっとも完全な臆病者であった。私はまたこれらの落穴について前に読んだこと――とっさに[#「とっさに」に傍点]生命を絶つということは彼らの恐ろしい計画のなかには少しもないということ――も忘れることができなかった。
 精神の興奮は幾時間も私を眠らせなかった。がとうとう私はふたたび眠りに落ちた。目を覚ますと、前と同じように一塊のパンと水の入った水差しとが置いてあった。焼くような渇きを覚えたので、私はその水差しの水を一飲みに飲みほした。それには薬がまぜてあったにちがいない、――飲むか飲まないうちにたまらなく睡くなったから。深い眠りが私におそいかかってきた、――死の眠りのような深い眠りが。どれだけ長くそれがつづいたか、もちろん私にはわからない。しかしまた眼を開いたときには、今度は身のまわりのものが見えるようになっていた。どこにその光源があるのか初めはわかりかねた異様な硫黄色の微光によって、この牢獄の広さや様子を見ることができたのだ。
 牢獄の大きさについて私はひどく思い違いをして
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