に増した。またたくまに部屋はその形をかえて菱形となった。しかしこの変化はそれでやみはしなかった、――私はそれがやむのを望みもしなければ願いもしなかった。その灼熱した壁を私は、永遠の平和の衣服として胸にぴったり着けることができるのだ。私は言った、「死――この落穴の死でさえなければどんな死でもいい!」ばかな! この落穴のなかへ[#「この落穴のなかへ」に傍点]私を駆りたてるのが、この燃える鉄板の目的であることを知らなかったのか? その灼熱に耐えることができるか? あるいはもしそれに耐えることができるとしても、その圧力に逆らうことができるか? そしていまや菱形は、なにも考えるひまを与えないくらいの速さでますます平たくなってきた。その中心、つまりその幅の広いところは、大きく口を開いているあの深淵の真上であった。私はたじろいだ、――が迫ってくる壁は抵抗できないように私を前へ押しすすめた。とうとう焼けこげて悶《もだ》えくるしむ私の体には、もう牢獄の堅い床の上に一インチの足場もなくなった。私はもうもがかなかった、が私の苦悶は、一声の高い、長い、最後の、絶望の絶叫となってほとばしった。私は自分が落穴のふちへよろめきよったのを感じた、――私は眼を逸《そ》らした――
 がやがやいう人声が聞えた! 多くの喇叭《らっぱ》の音のような高らかな響きが聞えた! 百雷のような荒々しい軋《きし》り音が聞えた! 炎の壁は急にとびのいた! 私が失神してその深淵のなかへ落ちこもうとした瞬間に、一つの腕がのびて私の腕をつかんだ。それはラサール将軍(7)の腕であった。フランス軍がトレードに入ったのだ。宗教裁判所はその敵の手に落ちた。


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(1) 十二世紀ごろから始まりその後数世紀にわたって、ローマ教会の教権擁護のために、異端その他宗教に関する罪悪を摘発撲滅するために行われた、歴史上有名な裁判。――フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、その他ヨーロッパの諸国においてさかんに行われて、異教徒の迫害に利用され、ことにスペインにおける宗教裁判はその糺問《きゅうもん》が峻烈《しゅんれつ》で処刑が残酷なので有名であった。第十八世紀にいたってようやくやみ、スペインでは最も遅く、一八三四年まで行われた。
(2) ポルトガル語で「信仰の行為」の意。宗教裁判所の異教徒処刑の判
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