ようなつもりで無理なことをやるだろうからね。こうして必ず彼はたちまち政治的破滅に陥ってしまうだろう。彼の没落は急激でもあるし、また見苦しくもあるだろうよ。あの facilis descensus Averni「地獄に降るは易し(16)」ということを話すのはたいへんけっこうだが、なにに登るのでも、カタラアニ(17)が歌の歌い方について言ったように、下るよりも上るほうがずっとやさしいのだ。現在の場合では、僕は降ってゆく者にはなんの同情も――少なくともなんの憐憫《れんびん》も――持っていない。あの男はかの monstrum horrendum(18) だ。破廉恥な天才だ。だが、僕は、あの男が総監のいわゆる『さるお方』なる婦人に裏をかかれて、僕が名刺差しのなかへ入れてきた手紙をあけてみなければならなくなったとき、彼がどう思うかということを、はっきり知りたくてたまらないね」
「どうして? 君はなにか変ったものでもそのなかへ入れてきたのかい?」
「なあに、――なかを白紙のままにしておくのはあんまりよくないだろうと思ったのさ、――そいつあ礼を失するだろうからな。D――は以前ウィンナで僕にひどい仕打ち
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