盾しているし、また、その書類をつまらないもののように、見る者をだまそうとする計画だなと思いつかせること。――それと、置場所だが、書類がどの訪問客にもまる見えのあまりに人眼につくところにあったこと。したがって僕が前に到達したあの結論ときちんと一致しているということ。こういったことはたしかに、疑うつもりで来た者には非常に嫌疑を濃くするものだったんだね。
 僕はできるだけ訪問を長びかせて、きっと大臣の興味をひき、彼がやっきとなるにちがいない話題を持ち出して、彼とさかんに議論をつづけながら、少しも手紙から注意を放さなかった。そうして調べているあいだに、その外観や、名刺差しのなかの入れぐあいなどを僕は暗記した。そしてとうとう一つの発見をしたが、それは僕がいだきそうなどんな小さな疑いでも消してしまうものだった。手紙の縁をよく見ていると、それが必要以上にこすれて[#「こすれて」に傍点]いることがわかったのだ。それは、堅い紙がいったん折り曲げられて紙折り箆《へら》で押えられ、そのもと折られた同じ折目のところから反対に折り返されたときにできる折れぐあい[#「ぐあい」に傍点]なんだよ。これを発見すれば十分だった。僕には、その手紙が手袋みたいに裏返しにされ、ふたたび宛名が書かれ、封印がしなおされたことは明らかだった。僕は大臣にさよならを言って、金製の嗅煙草《かぎたばこ》入れをテーブルの上に置いたまま、すぐ帰ってきた。
 翌朝、僕はその嗅煙草入れを取りに行って、前日の話をまた熱心に始めた。しかし、そうしているうちに邸の窓のすぐ下のところで、ピストルの音のような大きな音が聞え、つづいて恐ろしい悲鳴と、群集の叫び声とが聞えてきた。D――は窓の方へ駆けより、それを押し開いて、外を眺めた。そのあいだに、僕はあの名刺差しのところへ歩みより、手紙を取って、自分のポケットのなかへ入れ、そしてあとには、(外側だけは)同じようにしたにせ手紙を、かわりに入れておいた。それは僕が家《うち》で念入りに用意してきていたものなんだ、――パンでこさえた封印で造作もなくD――の花押をまねてね。
 往来の騒ぎは、銃を持った男の気違いじみた挙動から起ったものだった。彼は女子供の大勢いる真ん中でそいつを発射したのだ。しかし弾《たま》がこめてないことがわかり、狂人か酔っ払いだと思われて、行くままにされた。その男が行ってしまうと、
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