れることを予知したにちがいない、と僕は思った。彼がちょいちょい夜家をあけることを、総監は自分の成功を助けるものだと思って大いに喜んだが、僕はただそれを、警察に十分に捜索させる機会を与え、そうしてそれだけ早く彼らに、G――が事実とうとう到達したあの確信――手紙が屋敷の内にないのだという確信を――与えようとする策略《リュウズ》だと考えた。それからまた、僕がさっきちょっと骨を折って君に詳しく話した、あの隠された品物を捜す場合にとる、警察の一本調子な方針についてのあらゆる考えだね、――ああいう考えはみんな必ず大臣の心に浮んだろう、と僕は感じた。そういうことを考えると、彼はどうしても否応なしに普通の隅っこ[#「隅っこ」に傍点]の隠し場所などはいっさい眼もくれなかったにちがいない、あの男[#「あの男」に傍点]が、自分の邸のいちばん入り組んだ、引っこんだ隅っこでも、総監の眼や、探針や、錐や、拡大鏡にとっては、ごく普通の戸棚同様にあけっ放しのものであることを知らないほど、愚鈍であるはずがない、と僕は考えた。結局、僕は、彼がたとえ熟慮の末に選んだのではなくとも、当然の成行きとして、単純[#「単純」に傍点]な手段をとったにちがいない、ということを悟ったのだよ。君は、我々が最初に総監と会ったとき、この事件がそんなに彼を悩ませるのは、それがきわめて[#「きわめて」に傍点]わかりきっているためかもしれんと僕が言ったら、総監がやけに笑いこけたことを、たぶん覚えているだろう」
「うん、たいへんなご機嫌だったことをよく覚えているよ。あんまり笑うので、ひきつけやしないかと僕はほんとうに思ったものだ」と私は言った。
「物質界には」とデュパンは語をつづけた。「非物質界と非常によく類似したことがたくさんある。だから、隠喩《いんゆ》やあるいは直喩が叙述を修飾するとともに、議論を強めることができるという修辞上の独断が、いくらか真理らしく見えるのだ。たとえば惰性力《ウィース・イネルティアエ》の法則は物理学でも形而上《けいじじょう》学でも同一であるらしい。物理学で、大きい物体を動かすのは小さい物体を動かすよりも困難で、それに伴う運動量《モーメントゥム》はその困難に比例するものであるが、これは形而上学で、能力の大きい知能は劣等な知能よりもその動作において力があり、堅実であり、重大な結果を生ずるけれども、またそれより
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