また例の甲虫を発見したことのために、あるいはおそらくジュピターがそれをしきりに「ほんとうの黄金でできている虫」だと言い張ったことのために、彼の空想がいよいよ強められているのだ、ということを疑わなかった。いったい、発狂しやすい人間というものはそういう暗示には造作なくかかりがちなもので、ことにそれが前から好んで考えていることと一致する場合にはなおさらである。それから私はこの気の毒な男が甲虫を「自分の身代の手引き」だと言ったことを思い出した。とにかく、私はむしょうにいらいらし、また途方に暮れた。が、しまいにはとうとう、やむを得ぬことと諦《あきら》めて気持よくやろう――本気で掘って、そうして早くこの空想家に目《ま》のあたり証拠を見せつけて、彼のいだいている考えのまちがっていることを納得させてやろう――と心に決めたのであった。
角灯に火をつけて、我々一同は、こんなことよりはもっとわけのわかった事がらにふさわしいような熱心さをもって仕事にとりかかった。そして、火影が我々の体や道具を照らしたとき、私は、我々がどんなに絵のような一群をなしているだろう、また、偶然に我々のいるところを通りかかる人があっ
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