まで樹木がぎっしり生えていて、ところどころに巨岩が散らばっていて、その岩は地面の上にただごろごろころがっているらしく、たいていはよりかかっている樹木に支えられて、やっと下の谷底へ転落しないでいるのだ。さまざまな方向に走っている深い峡谷は、あたりの風景にいっそう凄然《せいぜん》とした森厳の趣をそえているのであった。
 我々のよじ登ったこの天然の高台には茨《いばら》が一面を蔽《おお》っていて、大鎌がなかったらとても先へ進むことができまいということがすぐわかった。ジュピターは主人の指図によって、途方もなく高い一本のゆりの木の根もとまで、我々のために道を切りひらきはじめた。そのゆりの木というのは八本から十本ばかりの樫《かし》の木とともにこの平地に立っていて、その葉や形の美しいこと、枝の広くひろがっていること、外観の堂々たることなどの点では、それらの樫の木のどれよりも、また私のそれまでに見たどんな木よりも、はるかに優《まさ》っているのであった。我々がこの木のところへ着いたとき、ルグランはジュピターの方へ振り向いて、この木によじ登れると思うかどうかと尋ねた。老人はこの問いにちょっとためらったようで、しばらくのあいだは返事をしなかった。とうとうその大きな幹に近づいて、まわりをゆっくり歩きまわって、念入りにそれを調べた。すっかり調べおえると、ただこう言った。
「ええ、旦那、ジャップの見た木で登れねえってえのはごぜえません」
「そんならできるだけ早く登ってくれ。じきに暗くなって、やることが見えなくなるだろうから」
「どこまで登るんですか? 旦那」とジュピターが尋ねた。
「まず大きい幹を登るんだ。そうすれば、どっちへ行くのか言ってやるから。――おい、――ちょっと待て! この甲虫を持ってゆくんだ」
「虫でがすかい! ウィル旦那。――あの黄金虫でがすかい!」とその黒人は恐ろしがって尻込《しりご》みしながら叫んだ。――「なんだってあんな虫を木の上まで持って上がらにゃなんねえでがす? ――わっしゃあそんなこと、まっぴらだあ!」
「ジャップ、お前が、お前みたいな大きな丈夫な黒んぼが、なにもしない、小さな、死んだ甲虫を持つのが怖いんならばだ、まあ、この紐《ひも》につけて持って行ってもいいさ。――だが、なんとかしてこいつを持って行かないんなら、仕方がないからおれはこのシャベルでお前の頭をたたき割らね
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