ぐあいに話していいか、あるいはまた話すべきかどうかも、わかり兼ねるのだ。
 僕はこの数日来あまりぐあいがよくなかったが、ジャップめは好意のおせっかいからまるで耐えがたいくらいに僕を悩ませる。君は信じてくれるだろうか? ――彼は先日、大きな棒を用意して、そいつで、僕が彼をまいて一人で本土の山中にその日を過したのを懲《こ》らそうとするのだ。僕が病気のような顔つきをしていたばかりにその折檻をまぬかれたのだと、僕はほんとうに信じている。
 この前お目にかかって以来、僕の標本棚《ひょうほんだな》にはなんら加うるところがない。
 もしなんとかご都合がついたら、ジュピターと同道にて来てくれたまえ。ぜひ[#「ぜひ」に傍点]来てくれたまえ。重大な用件について、今晩[#「今晩」に傍点]お目にかかりたい。もっとも[#「もっとも」に傍点]重大な用件であることを断言する。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から5字上げ]敬具
[#地から2字上げ]ウィリアム・ルグラン」

 この手紙の調子にはどこか私に非常な不安を与えるものがあった。全体の書きぶりがいつものルグランのとはよほど違っている。いったい彼はなにを夢想しているのだろう? どんな変な考えが新たに彼の興奮しやすい頭にとっついたのだろう? どんな「もっとも重大な用件」を彼が[#「彼が」に傍点]処理しなければならんというのだろう? ジュピターの話の様子ではどうもあまりいいことではなさそうだ。私はたび重なる不運のためにとうとう彼がまったく気が狂ったのではなかろうかと恐れた。だから、一刻もぐずぐずしないで、その黒人と同行する用意をした。
 波止場へ着くと、一|梃《ちょう》の大鎌《おおがま》と三梃の鋤《すき》とが我々の乗って行こうとするボートの底に置いてあるのに気がついた。どれもみな見たところ新しい。
「これはみんなどうしたんだい? ジャップ」と私は尋ねた。
「うちの旦那《だんな》の鎌と鋤でがす、旦那さま」
「そりゃあそうだろう。が、どうしてここにあるんだね?」
「ウィル旦那がこの鎌と鋤を町へ行って買って来いってきかねえんでがす。眼の玉がとび出るほどお金《あし》を取られましただ」
「しかし、いったいぜんたい、お前のところの『ウィル旦那』は鎌や鋤なんぞをどうしようというのかね?」
「そりゃあわっし[#「わっし」に傍点]にゃあわからねえこっでさ。また、う
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