はちっとも[#「ちっとも」に傍点]見えなくて、全体が髑髏の普通の絵にたしかに[#「たしかに」に傍点]そっくりだったのだ。
 彼はひどく不機嫌に紙を受け取り、火のなかへ投げこむつもりらしく、それを皺《しわ》くちゃにしようとしたが、そのときふと図をちらりと見ると、とつぜんそれに注意をひきつけられたようであった。たちまち彼の顔は真っ赤になり、――それから真っ蒼《さお》になった。数分間、彼は坐《すわ》ったままその図を詳しく調べつづけていた。とうとう立ち上がると、テーブルから蝋燭《ろうそく》を取って、部屋のいちばん遠い隅《すみ》っこにある船乗りの衣類箱のところへ行って腰をかけた。そこでまた、紙をあらゆる方向にひっくり返してしきりに調べた。だが彼は一ことも口をきかなかった。そして彼の挙動は大いに私をびっくりさせた。それでも、私はなにか口を出したりしてだんだんひどくなってくる彼の気むずかしさをつのらせないほうがよいと考えた。やがて彼は上衣《うわぎ》のポケットから紙入れを取り出して、例の紙をそのなかへ丁寧にしまいこみ、それを書机《ライティング・デスク》のなかに入れて、錠をかけた。彼の態度は今度はだんだん落ちついてきた。が最初の熱中しているような様子はまったくなくなっていた。それでも、むっつりしているというよりも、むしろ茫然《ぼうぜん》としているようだった。夜が更《ふ》けるにしたがって彼はますます空想に夢中になってゆき、私がどんな洒落《しゃれ》を言ってもそれから覚ますことができなかった。私は前にたびたびそこに泊ったことがあるので、その夜も小屋に泊るつもりだったが、なにしろ主《あるじ》がこんな機嫌なので、帰ったほうがいいと思った。彼は強《し》いて泊って行けとは言わなかったが、別れるときには、いつもよりももっと心をこめて私の手を握った。
 それから一カ月ばかりもたったころ(そのあいだ私はルグランにちっとも会わなかった)、彼の下男のジュピターが私をチャールストンに訪ねて来た。私は、この善良な年寄りの黒人がこんなにしょげているのを、それまでに見たことがなかった。で、なにかたいへんな災難が友の身に振りかかったのではなかろうかと気づかった。
「おい、ジャップ」と私が言った。「どうしたんだい? ――旦那はどうかね?」
「へえ、ほんとのことを申しますと、旦那さま、うちの旦那はあんまりよくねえんでがす
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