が、そのほかには何も武器は持っていないらしい。彼はぎごちなくお辞儀をして、「こんばんは」と挨拶した。そのフランス語の調子は、多少ヌーフシャテル訛《なま》りがあったが、それでもりっぱにパリ生れであることを示すものだった。
「やあ、おかけなさい」とデュパンが言った。「あなたは猩々のことでお訪ねになったのでしょうな。いや、たしかに、あれを持っておられるのは羨《うらや》ましいくらいだ。実にりっぱなものだし、無論ずいぶん高価なものにちがいない。あれは何歳くらいだと思いますかね?」
 その水夫は、なにか重荷を下ろしたといったような様子で、長い溜息《ためいき》をつき、それからしっかりした調子で答えた。
「わたしにはわからないんです、――が、せいぜい四歳か五歳くらいでしょう。ここに置いてくだすったんですか?」
「いやいや、ここにはあれを入れるに都合のいいところがありません。すぐ近所のデュブール街の貸廐《かしうまや》に置いてあるのです。あすの朝お渡ししましょう。もちろん、あなたは自分のものだということの証明はできるでしょうな?」
「ええ、できますとも」
「私はあれを手放すのが惜しいような気がしますよ」と
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