持っているようなこんなものじゃあない。僕はこの少しの束を、レスパネエ夫人の固くつかんでいた指からほどいたんだ。君はこれを何だと思う?」
「デュパン!」と、私はすっかりびくついて言った。「この髪の毛はとても変だね、――これは人間の毛[#「人間の毛」に傍点]じゃないよ」
「僕も人間の毛だとは言っちゃいないのだ」と彼が言った。「しかし、この点をきめる前に、この紙にここに僕が描いておいた小さな見取図をちょっと見てもらいたいな。これは、証言のある部分にレスパネエ嬢の咽喉にある『黒ずんだ傷と、深い爪の痕』と記されてあり、また他の部分に(デュマとエティエンヌとの両氏によって)『明らかに指の痕である一つづきの鉛色の斑点』と書かれているものの模写なんだ」
「君も気づくだろうが」と友は、テーブルの上に、二人の前へその紙をひろげながら、つづけて言った。「この図を見ると、固くしっかりとつかんだことがわかる。指のすべった[#「すべった」に傍点]様子もない。一本一本の指が、初めにつかんだとおりに、――おそらく相手の死ぬまで――ぎゅっとつかんだままだったのだ。今度は、これに描いてある一つ一つの跡に、君の指をみんな、
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