A金梃《かなてこ》で門口を打ちこわして、近隣の者八、九人が二名の憲兵とともに入った。このときには叫び声はやんでいた。が一同が最初の階段を駆け上がっていたとき、はげしく争うような荒々しい声が二言三言聞きとれた。それは家の上の方から聞えたものらしかった。第二の踊場に着いたときには、この音もやんでしまい、あたりはまったく静かになった。一同は手分けして室から室へと走りまわった。四階の大きな裏側の部屋へ行くと(その扉は内側から鍵《かぎ》をかけてあったので、無理に押しあけたのだが)、そこに居合せた全員を驚愕《きょうがく》させるというよりも、むしろ戦慄《せんりつ》させる光景が現出したのである。
 室内は実に乱雑を極め――家具は打ちこわされ四方に投げ散らされている。寝台はただ一個あるだけで、その寝具は取りのけられ、床の中央に投げだされていた。椅子の上には血にまみれた剃刀《かみそり》がある。炉の上にはやはり血に染まった、長い、ふさふさした人間の灰色の髪の毛が二束ばかり、根元から引き抜かれたものらしい。床の上にはナポレオン金貨四枚と、黄玉《トパーズ》の耳輪一個と、銀の大きなスプーン三個と、洋銀《メタル・ダ
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