船が高く上がったときに、私はあたりをちらりと一目見渡しました、――その一目だけで十分でした。私は一瞬間で自分たちの正確な位置を見てとりました。モスケー・ストロムの渦巻は真正面の四分の一マイルばかりのところにあるのです、――が、あなたがいまご覧になった渦巻が水車をまわす流れと違っているくらい、毎日のモスケー・ストロムとはまるで違っているのです。もし私がどこにいるのか、そしてどうなるのか、ということを知らなかったら、その場所がどんなところかぜんぜんわからなかったことでしょう。ところが知っていたものですから、恐ろしさのために私は思わず眼《め》を閉じました。眼瞼《まぶた》が痙攣《けいれん》でも起したように、ぴったりとくっついたのです。
それから二分とたたないころに、急に波が鎮《しず》まったような気がして、一面に泡に包まれました。
船は左舷《さげん》へぐいとなかばまわり、それからその新たな方向へ電《いなずま》のようにつき進みました。同時に水の轟く音は、鋭い叫び声のような――ちょうど幾千という蒸気釜《じょうきがま》がその放水管から一時に蒸気を出したと思われるような――物音にまったく消されてしま
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