ところがいま、私たちはその淵の方へ、まっしぐらに押し流されているのです、しかも、このような台風のなかを! 『きっと、私たちはちょうど滞潮《よどみ》の時分にあそこへ着くことになろう、――とすると多少は望みがあるわけだ』と私は考えました。――しかし次の瞬間には、少しでも望みなどを夢みるなんてなんという大馬鹿者《おおばかもの》だろうと自分を呪《のろ》いました。もし私どもの船が九十門の大砲を積載している軍艦の十倍もあったとしても、もう破滅の運命が決っているのだ、ということがよくわかったのです。
 このころまでには、嵐の最初のはげしさは衰えていました。あるいはたぶん、追風で走っていたのでそんなに強く感じなかったのかもしれません。がとにかく、いままで風のために平らにおさえつけられて泡立《あわだ》っていた波は、いまではまるで山のようにもり上がってきました。また、空にも不思議な変化が起っていました。あたりはまだやはり、どちらも一面に真っ黒でしたが、頭上あたりにとつぜん円い雲の切れ目ができて、澄みきった空があらわれました、――これまで見たことのないほど澄みきった、明るく濃い青色の空です、――そして、そこ
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