――だが私どもは、どうにかこうにか、いつも大したこともなくモスケー・ストロムの虎口《ここう》を通りぬけていました。それでもときどき、滞潮《よどみ》に一分ほど遅れたり早すぎたりしたときには、肝っ玉がひっくり返ったものですよ。またときによると、出帆するときに風が思ったほど強くなくて、望みどおりに進むことができず、そのうちに潮流のために船が自由にならなくなるようなこともありました。兄には十八になる息子がありましたし、私にも丈夫な奴《やつ》が二人ありました。この連中がそんなときにいれば、大橈《おおかい》を漕《こ》ぐのにも、あとで魚をとるときにも、よほど助けになったでしょうが、どうしたものか、自分たちはそんな冒険をしていても、若い連中をその危険な仕事のなかへひき入れようという気はありませんでした、――なんと言っても結局、恐ろしい危険なことでした[#「でした」に傍点]からね。
 もう五、六日もたてば、私がいまからお話しようとしていることが起ってから、ちょうど三年になります。一八――年の七月十八日のことでした。その日をこの地方の者は決して忘れますまい、――というのは、開闢《かいびゃく》以来吹いたこと
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