三津五郎を経て、源之助がさせられたのである。江戸末期に絶えんとした毒婦型・悪婆型を、一時、間に合せに源之助がさせられたのだが、それが源之助の役柄を決定してしまったのであった。こうして源之助は人々の渇望に応えて華々しく世に出たのであるが、それは又一面彼にとって不幸なことでもあった。
三
昔から歌舞妓芝居は女形の演ずる女を、悪人として扱っていない。立女形や娘役には、昔から悪人が少い。昔の見物は、悪人の女を見ようとしなかったのである。其処に、新しい領域が江戸末期に発見された。舞台の女が悪いことをするということは、つまりそれだけ相手役がいじめられることで、それを見物の方でも自分自分に感じて楽しむという――まあ訣《わか》り易くいえば一種のまぞひずむ[#「まぞひずむ」に傍線]だが、これが源之助の芸の場合には大切な解釈であったのだ。これは又、女形の領域が広くなったことで、江戸歌舞妓にとっても大事なことであった。
一体女形は人間としては存外善人ではない。例えば敵役も、立敵の役のようなものは立役と並んだ大役であるから、舞台の上では重々しくて、やたらに打ったり叩いたりへらず口をきいたりすることは
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