り、ほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]の補綴によつてなつた「組み歌」なること、ずつと後世の世阿弥の如き専門家の手で出来た、意識的に旧叙事詩を改作・補綴したものではないかと思ふのである。
右の仮説は、今は真の仮説に止るであらう。併し、宅守・茅上相聞の歌が、創作詩でないことだけは考へねばならぬ。
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我々の国に於て、異神の信仰を携へ歩いた事は、幾度であるか知れない。古く常世神・八幡神の如きが見えるのは、神道の上にも、段々の変遷増加のあつたことを示してゐるのだ。倭媛の如きも、実は日の神の教への布教者として旅を続けた人であつたのである。倭を出た神は、伊勢に鎮座の処を見出したのであつた。此高級巫女から伺はれる事実は、飛鳥・藤原の時代に既に、異教の村々を巡遊した多くの巫女のあつたことである。豊受[#(ノ)]神は丹波から移り、安菩《アホ》[#(ノ)]神は出雲から来て居る。同時に古代幾多の貴種流離譚は、一部分は、神並びに神を携へて歩いた人々の歴史を語つてゐるのである。天[#(ノ)]日矛の物語・比売許曾《ヒメコソ》の縁起は、史実と言ふより、蕃神渡来の記憶を語るものであらう。
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底本:「折口信夫全集 1」中央公論社
   1995(平成7)年2月10日初版発行
底本の親本:「『古代研究』第二部 国文学篇」大岡山書店
   1929(昭和4)年4月25日発行
※題名下に「大正十五年頃草稿」の記載あり。
※底本の題名の下に書かれている「大正十五年頃草稿」はファイル末の「注記」欄に移しました。
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年8月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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