外は、低い女官の平凡な務めになつて行つた。「御湯殿の上《ウヘ》の日記」は、其書き続がれた年代の長さだけでも、為事の大事であつた事が訣る。元は、御湯殿における神事を日録したものらしい。宮廷の主上の日常御起居に於て、最神聖な時間は、湯を奉る際である。此時の神ながらの言行は記し留めねばならない。かうしてはじまつた日記が、聖躬の健康などに関しても書く様になり、果は雑事までも留めるに到つたものらしい。由緒知らぬが棄てられぬ行事として長い時代を経たのである。御湯殿の神秘は、古い昔に過ぎ去つた。髪やかづら[#「かづら」に傍線]を重く見る時代が来て、御櫛笥殿の方に移り、そこに奉仕する貴女の待遇が重くなつて行つた。

     一〇 ふぢはら[#「ふぢはら」に傍線]を名とする聖職

此沐浴の聖職に与るのは、平安前には「中臣女」の為事となつた期間があつたらしい。宮廷に占め得た藤原氏の権勢も、其氏女なる藤原女の天の羽衣に触れる機会が多くなつたからである。
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わが岡の※[#「靈」の「巫」に代えて「龍」、第3水準1−94−88]《オカミ》に言ひて降らせたる、雪のくだけし、そこに散りけむ(万
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