語の勢力は、しらべ[#「しらべ」に傍線]に交渉が尠い処から、大した問題にならなくなつた。かけ詞は、調子の曲折を作ると共に、意義の快い転換と、切迫とを起し、自ら外形にも緊張感を来す。此意味に於て、其新味のある物は、愈喜ばれる様になつて行つたものである。此等の傾向は、新古今集各本に通じて言へることでもあるが、遠島抄の中心態度は、茲に在るのである。
其は、耳からする芸謡・民謡類の、雑多な影響のある事は勿論であるが、目から入る文を読む時に起る、音律感からも来てゐる。私は、連歌に詠まれる人事や、歌詞などから、主として導かれてゐる様に思ふ。王朝末から段々、たけ[#「たけ」に傍線]の意識が明らかになつて来てゐたのを、新古今で極度に、其を伸した結果、近代的感覚を喜ばす様なしらべ[#「しらべ」に傍線]を欲する様になつて、茲まで行き著いたものと思ふ。



底本:「折口信夫全集 1」中央公論社
   1995(平成7)年2月10日初版発行
底本の親本:「『古代研究』第二部 国文学篇」大岡山書店
   1929(昭和4)年4月25日発行
初出:「隠岐本新古今和歌集」
   1927(昭和2)年9月
※底本の題名の下に書かれている「昭和二年九月『隠岐本新古今和歌集』巻首」はファイル末の「初出」欄に移しました
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年7月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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