ためには、自己讃美あれ。当来の学徒にとつては、正しい歴史的内省がなければならぬと思ふ。私はわれ/\の祖先がまだ国家意識を深く持たなかつたと思はれる飛鳥の都以前の邑落生活の俤を濃く現して見て、懐しい祖先のいとほしい粗野な生活を見瞻《みまも》らなければならぬ。
二
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佐韋《サヰ》川よ 霧立ちわたり、畝傍山 木《コ》の葉《ハ》さやぎぬ。風吹かむとす(いすけより媛――記)
畝傍山 昼は雲と居《ヰ》、夕|来《サ》れば、風吹かむとぞ 木の葉さやげる
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文献のまゝを信じてよければ、開国第一・第二の天皇の頃にも、既にかうした描写能力――寧《むしろ》、人間の対立物なる自然を静かに心に持ち湛へて居ることの出来たのに驚かねばならない。たとひ、此が継子の皇子の異図を諷したものと言ふ本文の見解を、其儘《そのまま》にうけとつても、観照態度が確立して居なければ、此隠喩を含んだ叙景詩の姿の出来るはずはないと思ふ。論より証拠、其後、遥かに降つた時代の物と言ふ、仁徳天皇が吉備のくろ媛[#「くろ媛」に傍線]にうたひかけられた歌
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山料地《ヤマ
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