つめらしい顔をして、仔細らしい事を言はうとするのである。だから、書かぬ先から、余計な事だと言はれさうな気おくれがする。
まづ第一に、私の心の上の重ね写真は、大した問題にするがものはない。もつと/\重大なのは、日本人の持つて来た、いろ/\な知識の映像の、重つて焼きつけられて来た民俗である。其から其間を縫うて、尤らしい儀式・信仰にしあげる為に、民俗々々にはたらいた内存・外来の高等な学の智慧である。
当麻信仰には、妙に不思議な尼や、何ともわからぬ化身の人が出る。謡の「当麻」にも、又其と一向関係もないらしいもので謂つても、「朝顔の露の宮」、あれなどにも、やはり化尼《ケニ》が出て来る。曼陀羅縁起以来の繋りあひらしい。私の場合も、語部の姥が、後に化尼の役になつて来てゐる。此などは、確かに意識して書いたやうに覚えてゐる。その発端に何といふことなしに、ふつと結びついて来たのだから、やはりさう言ふことになるかも知れぬ。が、人によつては、時がたてば私自身にも、私の無意識から出た化尼として、原因をこゝに求めさうな気がする。それはともかくも、実際そんな風に計画して書いて行くと、歴史小説といふものは、合理臭い書
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