したように、彼は馬から身を翻《かえ》しておりた。二人の資人はすぐ、馳《か》け寄って手綱を控えた。
家持は、門と門との間に、細かい柵《さく》をし囲《めぐ》らし、目隠しに枳殻《からたちばな》の叢生《やぶ》を作った家の外構えの一個処に、まだ石城《しき》が可なり広く、人丈にあまる程に築いてあるそばに、近寄って行った。
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荒れては居るが、ここは横佩墻内《よこはきかきつ》だ。
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そう言って、暫らく息を詰めるようにして、石垣の荒い面を見入って居た。
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そうに御座ります。此石城からしてついた名の、横佩墻内だと申しますとかで、せめて一ところだけは、と強いてとり毀《こぼ》たないとか申します。何分、帥《そつ》の殿のお都入りまでは、何としても、此儘《このまま》で置くので御座りましょう。さように、人が申し聞けました。はい。
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何時の間にか、三条七坊まで来てしまっていたのである。
おれは、こんな処へ来ようと言う考えはなかったのに――。だが、やっぱり、おれにはまだまだ、若い色好みの心が、失せないで居るぞ。何だか、自分で自分を
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