》である。おれには、憂鬱《ゆううつ》な家職が、ひしひしと、肩のつまるほどかかって居るのだ。こんなことを考えて見ると、寂しくてはかない気もするが、すぐに其は、自身と関係のないことのように、心は饒《にぎ》わしく和らいで来て、為方がなかった。
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おい、汝《わけ》たち。大伴|氏上家《うじのかみけ》も、築土垣を引き廻そうかな。
とんでもないことを仰せられます。
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二人の声が、おなじ感情から迸《ほとばし》り出た。
年の増した方の資人《とねり》が、切実な胸を告白するように言った。
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私どもは、御譜第では御座りません。でも、大伴と言うお名は、御門《みかど》御垣《みかき》と、関係深い称《とな》えだ、と承って居ります。大伴家からして、門垣を今様にする事になって御覧《ごろう》じませ。御一族の末々まで、あなた様をお呪《のろ》い申し上げることでおざりましょう。其どころでは、御座りません。第一、ほかの氏々――大伴家よりも、ぐんと歴史の新しい、人の世になって初まった家々の氏人までが、御一族を蔑《ないがしろ》に致すことになりましょう。
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