いのそつ》に貶《おと》されて、都を離れた。そうして今は、難波で謹慎しているではないか。自分の親旅人も、三十年前に踏んだ道である。
世間の氏上家《うじのかみけ》の主人《あるじ》は、大方もう、石城など築き廻《まわ》して、大門小門を繋《つな》ぐと謂《い》った要害と、装飾とに、興味を失いかけて居るのに、何とした自分だ。おれはまだ現に、出来るなら、宮廷のお目こぼしを頂いて、石に囲われた家の中で、家の子どもを集め、氏人たちを召《よ》びつどえて、弓場《ゆば》に精励させ、棒術《ほこゆけ》・大刀かき[#「大刀かき」に傍点]に出精させよう、と謂ったことを空想して居る。そうして年々《としどし》頻繁に、氏神其外の神々を祭っている。其度毎に、家の語部|大伴語造《おおとものかたりのみやつこ》の嫗《おむな》たちを呼んで、之に捉《つかま》え処もない昔代《むかしよ》の物語りをさせて、氏人に傾聴を強いて居る。何だか、空《くう》な事に力を入れて居たように思えてならぬ寂しさだ。
だが、其氏神祭りや、祭りの後宴《ごえん》に、大勢の氏人の集ることは、とりわけやかましく言われて来た、三四年以来の法度《はっと》である。
こんな溜《た
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