ねあてたおれたちぞよ。こう こう こう。
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九つの杖びとは、心から神になって居る。彼らは、杖を地に置き、鬘を解いた。鬘は此時、唯真白な布に過ぎなかった。其を、長さの限り振り捌《さば》いて、一様に塚に向けて振った。
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こう こう こう。
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こう言う動作をくり返して居る間に、自然な感情の鬱屈《うっくつ》と、休息を欲するからだの疲れとが、九体の神の心を、人間に返した。彼らは見る間に、白い布を頭に捲《ま》きこんで鬘とし、杖を手にとった旅人として、立っていた。
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おい。無言《しじま》の勤めも此までじゃ。
おお。
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八つの声が答えて、彼等は訓練せられた所作のように、忽一度に、草の上に寛《くつろ》ぎ、再杖を横えた。
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これで大和も、河内との境じゃで、もう魂ごいの行《ぎょう》もすんだ。今時分は、郎女さまのからだは、廬《いおり》の中で魂をとり返して、ぴちぴちして居られようぞ。
ここは、何処だいの。
知らぬかいよ。大和にとっては大和の国、河内にとっては河内の国の大関《お
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