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うるさいぞ。誰に言ふ語だと思うて、言うて居るのだ。やめぬか。雜談《ジヤウダン》だ。雜談を眞に受ける奴が、あるものか。
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馬はやつぱり、しつと/\と、歩いて居た。築土垣 築土垣。又、築土垣。こんなに何時の間に、家構へが替つて居たのだらう。家持は、なんだか、晩《オソ》かれ早かれ、ありさうな氣のする次の都――どうやらかう、もつとおつぴらいた平野の中の新京城《シンケイジヤウ》にでも、來てゐるのでないかと言ふ氣が、ふとしかゝつたのを、危く喰ひとめた。
築土垣 築土垣。もう、彼の心は動かなくなつた。唯、よいとする氣持ちと、よくないと思はうとする意思との間に、氣分だけが、あちらへ寄りこちらへよりしてゐるだけであつた。
何時の間にか、平群《ヘグリ》の丘や、色々な塔を持つた京西《キヤウニシ》の寺々の見渡される、三條邊の町尻に來て居ることに氣がついた。
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これは/\。まだこゝに、殘つてゐたぞ。
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珍しい發見をしたやうに、彼は馬から身を飜《カヘ》しておりた。二人の資人はすぐ、馳け寄つて手綱を控へた。
家持は、門と門との間
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