居る。山の此方《コナタ》にも小櫻の花が、咲き出したのである。
此時分になつて、奈良の家では、誰となく、こんな事を考へはじめてゐた。此はきつと、里方の女たちのよく[#「よく」に傍点]する、春の野遊びに出られたのだ。――何時からとも知らぬ、習《ナラハ》しである。春秋の、日と夜と平分《ヘイブン》する其頂上に當る日は、一日、日の影を逐うて歩く風が行はれて居た。どこまでもどこまでも、野の果て、山の末、海の渚まで、日を送つて行く女衆が多かつた。さうして、夜に入つてくた/\になつて、家路を戻る。此爲來りを何時となく、女たちの咄すのを聞いて、姫が、女の行《ギヤウ》として、この野遊びをする氣になられたのだ、と思つたのである。かう言ふ、考へに落ちつくと、ありやうもない考へだと訣つて居ても、皆の心が一時、ほうと輕くなつた。
ところが、其日も晝さがりになり、段々|夕光《ユフカゲ》の、催して來る時刻が來た。昨日は、駄目になつた日の入りの景色が、今日は中日《チユウニチ》にも劣るまいと思はれる華やかさで輝いた。横佩家の人々の心は、再重くなつて居た。

        八

奈良の都には、まだ時をり、石城《シキ》と謂
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