るこのあたりの峰《ヲ》の上《ヘ》に、光り物がしたり、時ならぬ一時颪《イツトキオロシ》の凄い唸りが、聞えたりする。今までつひに[#「つひに」に傍点]聞かぬこと。里人は唯かう、恐れ謹しんで居る、とも言つた。
こんな話を殘して行つた里の娘たちも、苗代田の畔に、めい/\のかざしの躑躅花を插して歸つた。其は晝のこと、田舍は田舍らしい閨の中に、今は寢ついたであらう。夜はひた更けに、更けて行く。
晝の恐れのなごりに、寢苦しがつて居た女たちも、おびえ疲れに寢入つてしまつた。頭上の崖で、寢鳥の鳴き聲がした。郎女は、まどろんだとも思はぬ目を、ふつと開いた。續いて今ひと響き、びし[#「びし」に傍点]としたのは、鳥などの、翼ぐるめ[#「ぐるめ」に傍点]ひき裂かれたらしい音である。だが其だけで、山は音どころか、生き物も絶えたやうに、虚しい空間の闇に、時間が立つて行つた。
郎女の額《ヌカ》の上の天井の光りの暈《カサ》が、ほの/″\と白んで來る。明りの隈はあちこちに偏倚《カタヨ》つて、光りを竪にくぎつて行く。と見る間に、ぱつと明るくなる。そこに大きな花。蒼白い菫。その花びらが、幾つにも分けて見せる隈、佛の花の青蓮華
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