い。もう/\、輕はずみな咒術《オコナヒ》は思ひとまることにしよう。かうして、魂《タマ》の游離《アクガ》れ出た處の近くにさへ居れば、やがては、元のお身になり戻り遊されることだらう。こんな風に考へて、乳母は唯、氣長に氣ながに、と女たちを諭し/\した。
こんな事をして居る中に、早一月も過ぎて、櫻の後、暫らく寂しかつた山に、躑躅が燃え立つた。足も行かれぬ崖の上や、巖の腹などに、一群《ヒトムラ》々々咲いて居るのが、奧山の春は今だ、となのつて居るやうである。
ある日は、山へ/\と、里の娘ばかりが上つて行くのを見た。凡數十人の若い女が、何處で宿つたのか、其次の日、てんでに赤い山の花を髮にかざして、降りて來た。廬の庭から見あげた若女房の一人が、山の躑躅林《ツヽジバヤシ》が練つて降るやうだ、と聲をあげた。
ぞよ/″\と廬の前を通る時、皆頭をさげて行つた。其中の二三人が、つくねんとして暮す若人たちの慰みに呼び入れられて、板屋の端へ來た。當麻の田居も、今は苗代時である。やがては田植ゑをする。其時は、見に出やしやれ。こんな身でも、其時はずんと、をなごぶりが上るぞな、と笑ふ者もあつた。
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