かつた。其を、長さの限り振り捌いて、一樣に塚に向けて振つた。
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こう こう こう。
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かう言ふ動作をくり返して居る間に、自然な感情の鬱屈と、休息を欲するからだの疲れとが、九體の神の心を、人間に返した。彼らは見る間に、白い布を頭に捲きこんで鬘とし、杖を手にとつた旅人として、立つてゐた。
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をい。無言《シヾマ》の勤《ツト》めも此までぢや。
をゝ。
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八つの聲が答へて、彼等は訓練せられた所作のやうに、忽一度に、草の上に寛《クツロ》ぎ、再杖を横へた。
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これで大和も、河内との境ぢやで、もう魂ごひの行《ギヤウ》もすんだ。今時分は、郎女さまのからだは、廬《イホリ》の中で魂をとり返して、ぴち/\しく居られようぞ。
こゝは、何處だいの。
知らぬかいよ。大和にとつては大和の國、河内にとつては河内の國の大關《オホゼキ》。二上の當麻路《タギマヂ》の關《セキ》――。
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別の長老《トネ》めいた者が、説明を續《ツ》いだ。
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四五十年あとまでは、唯關と言ふば
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