おかげぢやぞ。まだなか/\隱れては歩き居《ヲ》る、と人の噂ぢやが、嘘ぢやなからう。身が保證する。おれなどは、張文成ばかり古くから讀み過ぎて、早く精氣の盡きてしまうた心持ちがする。――ぢやが全く、文成はえゝなう。あの仁《ジン》に會うて來た者の話では、豬肥《ヰノコヾ》えのした、唯の漢土《モロコシ》びとぢやつたげなが、心はまるで、やまとのものと、一つと思ふが、お身なら、諾《ウベナ》うてくれるだらうの。
文成に限る事ではおざらぬが、あちらの物は、讀んで居て、知らぬ事ばかり教へられるやうで、時々ふつと思ひ返すと、こんな思はざつた考へを、いつの間にか、持つてゐる――そんな空恐しい氣さへすることが、ありますて。お身さまにも、そんな經驗《オボエ》は、おありでがな。
大ありおほ有り。毎日々々、其よ。しまひに、どうなるのぢや。こんなに智慧づいては、と思はれてならぬことが――。ぢやが、女子《ヲミナゴ》だけには、まづ當分、女部屋のほの暗い中で、こんな智慧づかぬ、のどかな心で居させたいものぢや。第一其が、われ/\男の爲ぢやて。
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家持は、此了解に富んだ貴人に向つては、何でも言つてよい、青
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