る際《キハ》に、ふりかへつた姫の輝くやうな頬のうへに、細く傳ふものゝあつたのを知る者の、ある訣はなかつた。

姫の俤びとに貸す爲の衣に描いた繪樣《ヱヤウ》は、そのまゝ曼陀羅の相《スガタ》を具へて居たにしても、姫はその中に、唯一人の色身《シキシン》の幻を描いたに過ぎなかつた。併し、殘された刀自・若人たちの、うち瞻《マモ》る畫面には、見る/\數千地涌《スセンヂユ》の菩薩の姿が、浮き出て來た。其は、幾人の人々が、同時に見た、白日夢《ハクジツム》のたぐひかも知れぬ。



底本:「死者の書」角川書店
   1947(昭和22)年7月1日発行
※踊り字(/\、/″\)の誤用は底本の通りとしました。
※底本の誤植が疑われる箇所がありますが底本通りにしました。該当箇所の一覧を以下に記載します。(数字は、底本のページと行数です)
○p13−11 ほ[#「ほ」に傍点]つとり[#「とり」に傍点]と→「折口信夫全集第廿四卷昭和58年3月25日新訂第3版(以下「全集」と書きます)では「ほつとり[#「ほつとり」に傍点]」。
○p18−2 唯[#(ノ)]關と言ふ→底本第2刷、「全集」では「[#(ノ)]」はない。
○p21−10 役君小角《エノキミヲヅカ》→「全集」では「ヲヅヌ」。
○p24−1 弔りさげた、p48−11 横《ヨコタ》へて弔る→「全集」では「吊」。
○p30−6〜10 「とぶとり〜立ちました。」→「全集」では1字下げ。
○p34−3 尊い女性《ニシヨウ》→「全集」では「ニヨシヤウ」。
○p36−12 思ひ出しだぞ→「全集」では「思ひ出したぞ」。
○p41−4 盧《イホリ》、p103−4 盧堂《イホリドウ》→これ以外は「廬」。「全集」ではすべて「廬」。
○p42−2 古姥《フルウバ》の爲に 我々は→「全集」では「古姥《フルウバ》の爲に、我々は」。
○p43−12 美《ウルハ》はしい→「全集」では「美《ウルハ》しい」。
○p50−8 と言ふ者が著しく、殖えて來たのである。→「全集」では「と言ふ者が、著しく殖えて來たのである。」。
○p61−2 御《ミ》堂・々々を→「全集」では「御堂々々を」。
○p69−12、p72−1 捧術《ホコユケ》→「全集」では「棒術」。
○p70−3 大勢《オホセイ》→「全集」では「オホゼイ」。
○p87−3 貴《アデ》びと→「全集」では「テ」。
○p88−1 時疫《シエキ》→「全集」では「じえき」。「広辞苑」でも「じえき」。
○p89−11 老女《トシ》→「全集」では「トジ」。
○p100−5 其が幾かせ[#「かせ」に傍点]。→「全集」では「、」。
○p116−4 嘯《ウソフ》く→「全集」では「ブ」となっているように見えます。
○p121−8 訣やぢあ→「全集」では「ぢやあ」。
○p133−1 蠱物姥《マヂモノウバ》(p131−9では蠱物《マジモノ》使ひ)。
○p137−6 汝等の主の女郎→「全集」では「郎女」。
○p140−8 上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ジヤウラウ》→「全集」では「ジヤウラフ」。
○p163−10_11 堂・塔伽藍すべては、→「全集」では「堂・塔・伽藍すべては、」。
○乾聲《カラゴエ》鋭聲《トゴエ》聲《コヱ》→「エ」と「ヱ」の混在。
※「蓮」は底本では、「二点しんにょう+(くさかんむり/車)」、「喉」は底本では、つくりの「ユ」が「エ」となっています。これらの差異を、JIS X 0208規格票「6.6.2 字体の実現としての字形」に言う、「デザイン差」とみてよいか判断が付かなかったので、本文は「蓮」「喉」で入力した上で、その旨をここに記載します。
※訓点送り仮名は、以下の場合に小書き右寄せになっており、他は全てルビの位置におかれています。
「越中[#(ノ)]國」
「氏[#(ノ)]上の拜禮」
「故上総守|老《オユ》[#(ノ)]眞人以來」
「當麻[#(ノ)]眞人のお出ぢやげな」
「身狹[#(ノ)]乳母は、今の今まで」
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2003年12月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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