形は、通ふ神の風が神話化した後迄も、承け繼がれた。だから、女の方の成年式は早く廢れて、痕跡を初夜權に殘し、村の繁殖の爲の身體の試驗・性教練としての合理的の意味を持つ事になつたのであらう。其以前に、祭りの夜のまれびと[#「まれびと」に傍線]のひと夜づま[#「ひと夜づま」に傍線]の形で卒へられたのが、事實に於ける成女式であつた。
婚禮の夜は、新しい嬬屋《ツマヤ》が新夫婦の爲に開かれ、新しい床に魂が鎭められねばならぬのだから、神の來訪を待つことは考へられる。其爲に、新夫婦に科する「水祝ひ」なる祓へは、飛鳥朝にも既に行はれて居た。其頃から既に幾分含んでゐた村人のほふかいな[#「ほふかいな」に傍線]嫉妬表示の固定したものではない。まれびと[#「まれびと」に傍線]を迎へる當の責任者を祓へ、二人の常在所となるべき處を清めるのである。此も元は、水をかける若者が、神の資格に於てしたことゝ思はれる。
其上に家の巫女として、處女又は主婦が對すると言ふまれびと[#「まれびと」に傍線]迎への式がまじり合うて、新嬬屋の第一夜が、夫の「床避《トコサ》り」の風を生じたものであらう。床さる・片さるなど言ふ語は、元かうし
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