て居る樣子が見える。だから、束草などは説明の途のつかない間は、姑く家を汚すものと見ることも出來るが、簑笠を着てづゝ[#「づゝ」に傍点]と這入ることは、別途の説明をすることが出來る。婚禮の水祝ひも、實は孝徳紀によると、祓へから出發して居るのである。巫女と婚する形式になるところから婚前に祓ふべきを、事後に行うたのである。
此と同じで、簑笠を著たまゝで、他家の中に入るのは特定のおとづれ人[#「おとづれ人」に傍線]に限る事であるのに、其を犯したから祓ふのである。が此は、一段の變化を經て居る。祓へをして簑笠を着たおとづれ人[#「おとづれ人」に傍線]を待つ風があつたのを、其條件に叶はぬ人の闖入に對して、逆に此方法をとつたものである。決して農村生活に文化式施設を試みようとの考へから出たのではない。簑笠は、後世農人の常用品と專ら考へられて居るが、古代人にとつては、一つの變相服裝でもある。笠を頂き簑を纏ふ事が、人格を離れて神格に入る手段であつたと見るべき痕跡がある。
神武紀戊午の年九月の條に、敵の邑落を幾つも通らねば行けぬ天[#(ノ)]香山《カグヤマ》の埴土を盜みに遣るのに、椎根津彦《シヒネツヒコ》に弊
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