れることになつて居たらうと言へる。暫くでも長く居て頂いて、完全に祭りの心を享けて貰はねばならぬ。神事いまだ終らざるに、神あがりあつては一大事である。常世の長鳴き鳥は、此時間の調節者として、必要であつたのである。なぜなら、鶏の鳴き止まぬ中は朝であつて、而もまだ夜であつたから、神事に与る役目の重さは如何ばかり強い印象を、昔びとの心から心へ、伝へて来たことであらう。人力に能ふ限りは、朝と夜の交叉点をうまく処理して行くが、ある程度以上は鳥頼みであつた。
こゝに人間の妻訪ひに於けるよりも、もつと/\色濃く、庭つ鳥の神婚譚に入り込んで来ねばならなかつた訣のある事が、既にしのゝめのほがらにあなた方の胸に這入つた事であらうか。
神事の終りに、唯一度拍子とるだけが役目の鶏を、合奏団の大事な一員と考へられて居る。此は、天の窟戸開きの条の誤解である。心を澄して御覧なさい。神道のほんとうの夜明けの光りは、今思はぬ方角からさしかゝつて居る。
底本:「折口信夫全集 2」中央公論社
1995(平成7)年3月10日初版発行
初出:「やまと新聞」
1920(大正9)年1月
※底本の題名の下に書かれて居
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