「をとこじもの」は壮夫霊《ヲトコジモノ》によつて、招魂《コヒ》をすると言ふ呪詞的な用語例があつたものと見る。意識が変じて、畏ければ、畏しとして、壮夫なれば、壮夫としてなど言ふ風に感じられ、其が更に、新しい民間語原を呼び起したものと見える。併し其径路にあるものとして、遷却祟神祭祝詞・出雲国造神賀詞を見るがよい。物質・霊魂を比喩或は象徴としてゐることが知れる。同時に、「……の霊の表現としての」、「……の霊の寓りなる」と言ふ古代信仰が見えて居る。
○
私は、いろ/\の方角から形容詞語尾「し」の発生を説かうとした。さうして尚言ひ残した事が多い。最心残りなのは、どうしても「し」が語根の一部と見られるものゝ多いこと、亦もつと大切な語根の性質の論を決定した基礎の上に、此論は立つ筈だつたのだ。其が、毫も出来て居ない。其上未練を添へれば、此論文の、主題とした「し」の領格語尾としての成立をすら、存分に言ひ立てる事の出来ないで了うた事である。
唯、私の学問を長く慈愛の目で瞻続けて来て下された金沢先生は、かうした論文からも、書かれてゐない結論を見出して下さることゝ、信じもし、甘えもして、文をとぢめることを許して頂くのである。
底本:「折口信夫全集 12」中央公論社
1996(平成8)年3月25日初版発行
初出:「東洋語学乃研究」
1932(昭和7)年12月
※底本の題名の下に書かれている「昭和七年十二月刊、金沢博士還暦記念「東洋語学乃研究」」はファイル末の「初出」欄に移しました
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年11月30日作成
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