湛へるものと思はれるのだが、此も唯、習慣の推移から来てゐるに過ぎないことが知れる。
第一類
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○たかし[#「たかし」に傍線]るや……天[#「天」に二重傍線]のみかげ あめし[#「あめし」に傍線]るや……日のみかげ
○あまとぶや……軽《カル》[#「軽《カル》」に二重傍線]路《ノミチ》……領巾片敷《ヒレカタシ》き……鳥
○あまてるや……日《ヒ》[#「日《ヒ》」に二重傍線]のけに(あまてる……月)
○おしてるや……なに[#「なに」に二重傍線]は(おしてる……なには)
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第二類
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○をとめの寝《ナ》(鳴)すや板戸
○ゆふづくひ指也《サスヤ》河辺
○さをしかの布須也《フスヤ》くさむら
○さぬやまに宇都也斧音《ウツヤヲノト》
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第三類
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○かしこきや(恐也み墓仕ふる。……可之古伎夜みことかゞふり。……惶八神の渡り)
○うれたきや(宇礼多伎也しこほとゝぎす。……慨哉しこほとゝぎす)
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大体この様に三部類に亘つた「や」の用法について、今一応、おなじことをくり返して見たいと思ふ。第一類は、万葉当時既に枕詞としての意識は持たれてゐたに違ひないが、尚単なる用言の連体形の様な感じがある。其について、「や」を附加することによつて、様式上の連体状態を中断し、而も内容において、連体性能に何の変化もなからしめてゐる。と同時に、音律感覚の推移から来る不足感を十分補はしめてゐる。さうしてかう言ふ自然の方法が、新しい連体職能を構成すると共に、枕詞として独立した格の感じを成立せしめようとしてゐるのだ。
第二類になると、句が修飾部の様になつてゐるので、「や」の職能は、更に発達し、文法的機能が漲つて来た様子が見えるのだ。
ところが第三類には、右に言つた用語例の外に、特殊なものゝ加つて来てゐることが見られる。
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A○やすみしゝ我《ワゴ》おほきみの 恐也《カシコキヤ》みはかつかふる山科の鏡の山に……(万葉巻二)
○可之故伎也天のみかどをかけつれば、哭《ネ》のみし泣かゆ。朝宵にして(同巻二十)
○可之古伎夜みことかゞふり、明日ゆりや、かえがいむたねを いむなしにして(同)
B○……海
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