う噂がありました。ある時、松浦伯爵の祖先の静山と謂った人が、九鬼和泉守隆国と言う人に、あなたのお家では、節分の夜には主人が暗闇の座敷に坐っていると、目に見えぬ鬼の客が出て来て、坐りこむ。小石を水に入れて吸い物として勤めると、其啜る音がすると言うではありませんかと問いますと、其は噂だけで、そんな事はありません。唯豆を打つ場合に、「鬼は内、福は内、富は内」と唱える。其上、普通にする柊と鰯とは、私の家ではしないと答えられたと言う事です。
此は言うまでもなく、家の名が九鬼である事から、それによって縁起を祝って、家の名に関係のあるものを逐《オ》い却ける様な事は一切しない事になったのでしょう。勿論、鬼は来るはずはありません。だが来た事もなかったとは言えません。来るのは勿論、鬼に仮装した人が出て来て、鬼となって逐われる様子をするのでした。
底本:「日本の名随筆17 春」作品社
1984(昭和59)年3月25日第1刷発行
1997(平成9)年2月20日第20刷発行
底本の親本:「折口信夫全集 第三十巻」中央公論社
1968(昭和43)年4月初版発行
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2003年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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