て来た。其が更に仏説に習合して、餓鬼と呼ばれる様になつた事も解説した積りである。かうした精霊の肉身を獲ようとする焦慮は、ぬさ[#「ぬさ」に傍線]や、食物の散供を以てなだめられなければ、人に憑く事になつたのである。其が、食物を要求する手段として、人につく、と考へられる様になつたと見る事が出来る。
さうした精霊が、法力によつて肉身を獲て、人間に転生したと言ふ伝説の原型があつて、うわのが原[#「うわのが原」に傍線]の餓鬼阿弥の蘇生物語は出来たものであらう。曾て失はれた肉身をとり戻した魂魄の悦びを、単独に餓鬼阿弥の上に偶発したものと見るに及ばぬ。六角堂霊験譚も、やはり同じ筋のものであつて、仏説臭味の濃厚になつたものであつた。
それと比べると、餓鬼阿弥の方は、時衆の合理化を唯片端に受けて居るだけである。併しながら同時に、念仏衆の唱導によつて、此古い信仰が保存せられた事も否まれない。
底本:「折口信夫全集 2」中央公論社
1995(平成7)年3月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 民俗学篇第一」大岡山書店
1929(昭和4)年4月10日発行
初出:「民族 第一巻第二号」
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