のは、或は愛護桜に、暗示を得てゐるのかも知れない。
此書は後の愛護民譚に変化を与へる榜示となつてゐる様であるから、少しく詳しく説いて見る。二条家の宝物は、刃の大刀・降天の唐鞍の外に、真の鞭といふのがある。后の御悩が、嵯峨帝の御不例といふ事になつてゐる。継母は桜井御前といふ名で、藤原仲成の妹、二条家には再縁で、流離の際に人に托した小松姫といふ子がある。家来には、家老として荒木左衛門尉、執権職を罷めて、江州穴生に居る大道寺田畑之助及び其妻のふぢ[#「ふぢ」に傍線]、二人の間に生れた長子手白の猿、継母の腹心|太岳《ミタケ》悪五郎、旧臣の遺孤おふで[#「おふで」に傍線]などの人物がある。おふで[#「おふで」に傍線]が、お家の危急を知つて自ら小松姫と名のつて、二条家に入り込んで、愛護を助け、二つの宝を悪人の手に渡さなかつた、といふ話は、遠からずして表れた「ひらがな盛衰記」の烈婦おふで[#「おふで」に傍線]の導火である。
田畑之助は若君に、お家の危急を知らせる為に、女房をして、長子の手白を舞はせるが、名歌勝鬨第一段松枝・常夜の猿使ひの段の敷き写しである。又、柴屋町の揚げ屋で、荒木左衛門と巡り会うて
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