れ住んで、海波の上に造り架けた様な、さずき[#「さずき」に傍線]ともたな[#「たな」に傍線]とも謂はれた仮屋の中で、機を織つてゐる巫女があつた。板挙《タナ》に設けた機屋の中に居る処女と言ふので、此を棚機《タナバタ》つ女《メ》と言うた。又弟たなばた[#「弟たなばた」に傍線]とも言ふのは、神主の妹分であり、時としては、最高位の巫女の候補者である為でゞもあつた。此棚機つ女の生活は、早く、忘れられる時代が来た。でも、伝説化して、今までも残つてゐる。したてる媛[#「したてる媛」に傍線]の歌と言ふ大歌|夷曲《ヒナブリ》の「天《アメ》なるや弟たなばたの領《ウナ》がせる珠のみすまる……」(神代紀)など言ふ句の伝つたのも、水神の巫女の盛装した姿の記憶が出てゐるのだ。これが初秋であり、川水に関係がある上に、機織る女性にまづ迎へられる男性と言ふ、輪廓の大体合うた処から、七夕の織女・牽牛二星を奠《マツ》る行事といふ風に、殆ど完全に、習合せられて了うた。
七夕の供へ物・立て物などを川へ流す外、川に棚や縄を懸けて、盆棚同様の供物をする処もある。又、害虫や睡魔を払ひ棄てる風俗さへ添うてゐる。此から見ると、水神祭りの
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