爭」、第3水準1−88−85]らせるものは、忘れた時分にひよっくり[#「ひよっくり」に傍点]と、波と空との間から生れて来る――誇張なしにさう感じる――鳥と紛れさうな刳《ク》り舟の影である。
遠目には、磯の岩かと思はれる家の屋根が、一かたまりづゝぽっつり[#「ぽっつり」に傍点]と置き忘れられてゐる。炎を履む様な砂山を伝うて、行きつくと、此ほどの家数に、と思ふ程、ことりと音を立てる人も居ない。あかんぼの声がすると思うて、廻つて見ると、山羊が、其もたつた一疋、雨欲しさうに鳴き立てゝゐるのだ。
どこで行き斃れてもよい旅人ですら、妙に、遠い海と空とのあはひ[#「あはひ」に傍点]の色濃い一線を見つめて、ほう[#「ほう」に傍点]とすることがある。沖縄の島も、北の山原《ヤンバル》など言ふ地方では、行つても/\、こんな村ばかりが多かつた。どうにもならぬからだを持ち煩《アツカ》うて、こんな浦伝ひを続ける遊子も、おなじ世間には、まだ/\ある。其上、気づくか気づかないかの違ひだけで、物音もない海浜に、ほう[#「ほう」に傍点]として、暮しつゞけてゐる人々が、まだ其上幾万か生きてゐる。
ほう[#「ほう」に傍点]と
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