今見つからない。新しい源一郎さんのお手紙を出して貰うて、横着ながら、「よりあひ話」の責めを塞して頂かうと思ふ。
御新著拝見、右の八十四頁、久高島の結婚の時に、合唱する謡の意義につき、鄙見申し述べ候。
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女神殿は君のめでい
男神は首里殿めでい
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新婦なる女神(この女)は、君即、聞得大君《キコエオホギミ》の御奉公《メデイ》。新郎なる男神(男)は、首里天加那志《シユリテンガナシ》即、国王の御奉公《メデイ》、との意に御座候。古歌に、「首里がなし御奉公《メデイ》夜昼もしやべんあまん世のしのぐ御免めしよわれ」おもろさうし[#「おもろさうし」に傍点]にも、第二十二に、「みおやだいりおもろ双紙」とあり。公事おもろの事に候。
めでい[#「めでい」に傍線]は近代語にて、古くは、みおやだいり[#「みおやだいり」に傍線]。御奉公の意にて、現在も、公事又は公務のことを、沖縄にては、ゑえでえ[#「ゑえでえ」に傍線]と申し居り、曩のみおやだいり[#「みおやだいり」に傍線]のみ[#「み」に傍線]は、敬語にて、おやだいり[#「おやだいり」に傍線]を約して、おやだい[#「おやだい」に傍線]といひ、更に転訛して、ゑえでえ[#「ゑえでえ」に傍線]と発音致し候。猶申す迄もなく、こゝに国王即、首里加那志の御奉公を先にいひ、次に聞得大君の御奉公を謡ふべきが今日の順序なるに、君の御奉公を先に謡ひ、国王を次に謡へるは、注目すべき事にて、女人政治又は、聞得大君が、国王の上位にある感情を、表し居るものと察せられ候。
御承知の通り、沖縄にては、男女の語を連結する場合は、すべて、女性を先に称へ居り候。例をあぐれば、左の如くに御座候。
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女男《ヰナグヰキガ》 妹兄《ヰナイヰキイ》 姉弟《ヰナイヰキイ》 夫婦《ミイトウ》
夫婦《トヂミイトウ》 祖父母《パアプチイ》(又は、ふああふぢい[#「ふああふぢい」に傍線]。ふああ[#「ふああ」に傍線]又は、ぱあ[#「ぱあ」に傍線]は、婆のこと。即、祖母にて、ふぢい[#「ふぢい」に傍線]又は、ぷぢい[#「ぷぢい」に傍線]は、うふぢい[#「うふぢい」に傍線]又は、うぷぢい[#「うぷぢい」に傍線]の略にて、大父の義。即、祖父のことなり)
|若い男女《ミヤラビワカムン》 等。 島袋源
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