[#「からかはれた」に傍点]ものである。もさ[#「もさ」に傍線]はまをす[#「まをす」に傍線]から出た間投詞又は語尾で、単純な田舎の古朴な語とは言へない。ある種の洗煉意識と、一種の言語遊戯観を多く持つた「奴詞《ヤツココトバ》」である。もおす[#「もおす」に傍点](申)の一拗体で、決定感を帯びてゐる為に、も[#「も」に傍点]さ[#「さ」に白丸傍点]と言つて、語尾におかれる事が多い。これが一段素朴で、語尾の決定感を表示することが、柔軟で、丁寧に気分を語らうとする語尾のもおす[#「もおす」に傍点]が、もつと広い地域に渉つて更に音韻の変化した形で示される場合が、なもし[#「なもし」に傍線]・のし[#「のし」に傍線]である。此系統はます[#「ます」に傍線]・もす[#「もす」に傍線]の範囲から離れようとする意識を特に持つてゐるらしくて、なし[#「なし」に傍線]・なんし[#「なんし」に傍線]・のんし[#「のんし」に傍線]・なも[#「なも」に傍線]などと、音韻が特殊化してゐる。かう言ふ考へ方は、先生の方法を、間違へて流用させて頂いてゐなければ、幸である。
併しいづれにしても、まをす[#「まをす」に傍線]の分化でありながら、それのつく[#「つく」に傍点]筈の連用形には続かずに、終止形(連体形)につく癖がある。
即此は言ふまでもなく、対話敬語(又、丁寧語)で、
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行きもうす > 行くもさ
為《シ》もうす > しもさ
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又、
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行きもうす を 行くのし(<行くなもし)
為《シ》もうす を するのし(<するなもし)
[#ここで字下げ終わり]
かう言ふ風に連用形につかず、終止連体に続くものゝやうな傾向を示してゐることは、方言文法の飛躍法なのである。
近代の敬語は、対話敬語に犯されて、著しく敬語自身の領域を狭めてしまつてゐる。さうして、敬語と、対話敬語との中間の表現と謂つたものをすら感じて来てゐる。
その代表が、ます[#「ます」に傍点]であるが、決して本来の敬語ではない。勿論古代中世に用ゐられたいます[#「います」に傍点]系統の坐《マ》すではないことは明らかだ。が、時としては「狂言」などに、――殊に狂言に多く遣ふところから起る――ます[#「ます」に傍点](<まをす)の錯覚から古い敬語が残つてゐる感じのする例が、相応にある
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