議に好景気な人を指して、精魂が鼠か妖婆の加護を受くるでないかという辞《ことば》がある。
 鼠は好んで人の物を盗み匿《かく》す。西鶴の『胸算用《むねさんよう》』一に、吝嗇《りんしょく》な隠居婆が、妹に貰いし年玉金を失い歎くに、家内の者ども疑わるる事の迷惑と諸神に祈誓する。折節《おりふし》年末の煤払《すすはら》いして屋根裏を改めると、棟木《むなぎ》の間より杉原紙《すぎはらがみ》の一包みを捜し出し、見るにかの年玉金なり。全く鼠が盗み隠したと分ったとあり。幼少の頃読んだ物の名は忘れたが、浪人が家主方へ招かれ談して帰った跡で、その席に置いた金が見えず、浪人に質すと、われ貧に苦しみて盗めりとて謝罪し、早速一人娘を遊女に売って償却した。そののち大掃除をすると鼠の巣から見出した、浪人は償却しおわると直ぐ転住して行衛《ゆくえ》知れず、家主一生悔恨したとあった。支那にも『輟耕録』十一に、西域人木八剌、妻と対し食事す、妻金の肉|刺《さ》しで肉を突いて、口に入れ掛けた処へ客が来た。妻肉さしをそのまま器中に置き、茶を拵えて客に出し回って求むるに肉さしなし。今まで傍に在《い》た小婢を疑うて拷問厳しくしたが、盗んだ
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