を損じて走り得ず。近くに豕箱あるを見付けて這い往き、戸を開くと大豕二頭突き出て去った。跡へ入って身を潜め誰か通らば救いを乞わんと思いいる内、暁方《あけがた》近く屠者はでっかい庖丁《ほうちょう》を磨《と》ぎ、北の方《かた》同道でやって来て箱の戸を明け、「灰色の坊様出てきやれ、今日こそお前の腸を舌鼓打って賞翫しょう」と大いに呼ばわる。坊主は身も世もあらぬ思いに腰全く抜け、どうぞ命をと叫びながら四つ這いで出るを見て夫婦も尻餅《しりもち》、平素畜生を灰色坊主と呼んだ故、灰衣托鉢僧団の祖師フランシス大士が立腹と早合点で、地にひれふし、大士と弟子たちの宥免《ゆうめん》を願い奉ると夫婦|叩頭《こうとう》、坊主も頓首《とんしゅ》し続けて互いに赦しを乞う事十五分間とは前代未聞の椿事なり。ようやく夕べ宿《とま》った坊様と知れてやや安堵すれば、僧また豕箱隠れの事由を語り、双方大笑いで機嫌は直れど損じた脚は愈えず。亭主気の毒さの余りかの僧を家に請じて鄭重にもてなす。痩せた坊主は終夜休まず走って朝方|荘官《しょうかん》方へ著き、怪しからぬ屠家へ宿った、同伴は続いて来ぬから殺されたは必定《ひつじょう》と訴え出たの
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